「犯人は・・・お前だ!!」
そう言って、“私の手”は、このお店の店長さんを指し示した。
「何を言うんだ?!」
「詳しくは、僕から説明させていただきます。」
あとは、いつも通り、実際に謎を解いたネウロが事件の真実を暴き始めた。
「まず、被害者が落ちた頃、ちょうど屋上にいた先生のお友達のさんですが。彼女は女性ですから、大の大人である被害者を直接落としたとは考えにくい。また、話によると、自殺の理由も無いとのこと。となると、誰かが何かしらのトリックを使い、殺人を犯したことになります。では、そのトリックを説明しましょう。
屋上の下の部屋から、用意してあったロープの一方の端をまとめることで投げやすくし、屋上へと投げます。もう一方の端は大きいゴムとつなぎ、そちらを引っ張りながら、部屋を出て、ゴムの部分を扉に挟んで閉めます。
次に、屋上へと連れ出した被害者の頭部を殴って殺害。屋上には柵もありましたが、それほど高いものではなく、また柵の向こう側にはある程度幅の広い場所がありました。そこに、被害者を寝転ばせ、先ほど下の部屋から投げておいたロープで支えます。幸い、この建物の周りには高いビルなどが無く、上から見つかるという心配もありません。
あとは、屋上を出る際に、扉でそのロープを挟んで閉めてしまえば、次に誰かが開けたときに・・・。ということですよね、先生!」
私が頷いても、すぐに“犯人”は自分が犯人であるとは認めなかった。
「そんなの誰にだって、できただろう?!」
「いいえ。これは貴方にしかできません。このトリックの欠点は、仕組みが雑だということです。貴方もこのトリックを行ったのならわかると思いますが、成功するのはかなり難しかったでしょう。ですから、前もって何度も練習をする必要があるのです。もちろん、ロープなどの準備も必要ですから、思いつきでできるようなものでもありません。つまり、この店のオーナーである、貴方以外、このトリックは実行できないのです。それに、被害者をこの店で見たと証言したのは貴方のみ。これは、貴方が殺してしまったから、誰も彼を見ることはなかった・・・と先生は仰っています。」
「う、う・・・。」
「おや、もう反論はありませんか?まぁ、そうでしょう。貴方が1番に屋上へ向かわれましたが、その後、すぐに先生も向かいましたから、おそらく、使用したロープなどを片付ける時間が無かったはず。ですから、下の部屋を調べれば、このトリックを使ったことがすぐにでも・・・。」
ネウロがそこまで言うと、等々力さんがパッと笹塚さんの方を見て、笹塚さんの頷きを合図に、さっと調べに行った。・・・さすが。石垣さんは何をやってるんだか・・・。
なんて思ってたけど、どうやら等々力さんが調べに行ったのは、無駄になったようだ。
「く、く、く・・・。そうさ、俺が殺ったんだ。アイツを・・・!!」
「どうして、うちの主人を・・・。」
「アイツが研究と称して、ここに来ては、うちの店を馬鹿にするからさ!実際、お前たちの店の方が繁盛しているかもしれない。でもな!俺がお前たちに負けているとは思ったことがねぇんだよ!!俺の店の方がぜってぇに美味いんだ!!」
よくある理由だと思う。でも、やっぱり、そんなことで人殺しをしちゃうなんて、理解できない。
「大体、お前みたいなガキがドアを開けさえしなければ、俺に疑いが向けられなかったかもしれねぇのによー!!」
しかも、またちゃんを責め始めた。・・・そんなの理不尽すぎる!ちゃんも、まだ怯えた様子だった。
「お言葉ですが。ドアを開けたのが彼女じゃなかったとしても、この程度の事件、先生ならすぐに解かれますよ。」
・・・実際は、そう言ったネウロ自身がわかるという意味だ。でも、私にだってわかることもある。
「さっきから、貴方は人の所為にしてばかりで、自分の非を認めようとしない。たしかに、この店のラーメンは美味しかったけど、貴方がそんなことじゃ、お客さんは来ないと思います。それよりも、休みの日も研究に向かう、熱心なお店の方へ行きたいはずです。」
「お前・・・。アイツの方が俺より優れていると言いたいのか・・・?俺を馬鹿にするアイツを・・・!」
「そうじゃないと思います。貴方達は昔から友達だったんでしょ?だったら、きっと、貴方自身が認めようとしない欠点を気付かせようとして、注意しただけだったんだと・・・。」
「あぁ?!!ガキがうるせぇんだよ!!大人の事情に、首を突っ込むな!!」
「(貴様は大人だと言いたいのか・・・?笑わせる。・・・代わりに、我輩が貴様の欠点をわからせてやろう。魔界777ツ能力・・・・・・。)」
ネウロが犯人に近付き、こっそりと何かを言っていた。その間、犯人である店長さんがもがき苦しんでいたのは言うまでも無く。・・・大体、想像がつくようになってきた自分が嫌だ。
その後、犯人は大人しくなり、トリックに使われた証拠品を持って戻ってきた等々力さんたちに逮捕された。
「ちゃん、もう大丈夫だよ。」
「・・・ありがとう、弥子ちゃん。」
「あの・・・。さっきは何も知らずに、貴女を責めてしまって、ごめんなさい。」
「・・・!いえ・・・、大丈夫です。」
「私も動揺をしてしまって・・・!」
そう言うと、奥さんは泣き崩れてしまった。・・・本当に、この人は動揺をしていただけで、悪意があってちゃんを責めたわけではなかったみたい。
だけど、ちゃんだって、それで辛い思いをした。・・・・・・・やっぱり、殺人なんて誰も得をしない、ただただ悲しい“事件”だ。
「ごめんなさい・・・。」
ちゃんは、泣き崩れた奥さんにそう声をかけた。奥さんは何も答えられないほど泣いていて、そんな奥さんにちゃんはまた言った。
「ごめんなさい・・・。」
「ちゃん?・・・だから、ちゃんは悪くないって。」
「ううん・・・。私がドアを開けなければ、あの人が落ちることは無かったんだもん・・・。」
ネウロの言っていたトリック。たしかに、あれはちゃんが開けたことで、成功したのだろう。だからと言って、ちゃんはそれを知らなかったわけだし!
「たとえ、トリックのことを知らなくても、私は殺人に手を貸したことに・・・。」
ちゃんに先にそう言われ、私は何も言えなくなってしまった。・・・こんな周りを巻き込むような殺人は、本当にやめてほしい。なんて、今更だけど。
とにかく、今はちゃんに何か声をかけなくちゃ!そう思うけれど、私の頭には何も出てこず・・・。
すると、ちゃんの前に、つまり私の横に、誰かがスッとやって来た。そっちを見ると、笹塚さんが居て・・・。笹塚さんは、いつものテンションで話した。
「たしかに、ちゃんが開けたことで、そうなったんだろうけど。それがちゃんだったからこそ、弥子ちゃんも疑問に思って、トリックに気付けたんだろ?」
笹塚さんは、最後だけ私に少し視線を向けた。・・・そうか。一応、私が事件を解いたことになってるんだった。このときの私は、まさか笹塚さんにネウロの正体がバレることになるとは思っていなかったのだけれど。その話はさて置き。
私はネウロの事件の解説を思い出しながら、笹塚さんの言葉に頷いた。
「だから、早く事件を解決できたのはちゃんのおかげだったとも取れると思うけど?」
「ですが・・・。」
余程、ダメージが大きかったんだろう。ちゃんは、笹塚さんにそう励まされても、納得していない様子だった。
「・・・・・・・・・。そうやって罪悪感を覚えるのが普通だろう。それに、俺や弥子ちゃんが何か言っても、簡単に消し去れないのも当然だと思う。・・・だったら、その罪滅ぼしじゃないけど、自分に何ができるかを考えればいいんじゃないのか?」
「私にできること・・・。」
「逆に、殺人を犯し、さらにはその罪を認めようとしない、なんてことはやってはいけないこともわかったはずだし。・・・確かに重い経験かもしれないけど、こんな経験だからこそ学ぶことはあると思うよ。」
いきなり、ちゃんの気分も治りはしないだろうけど、それでも少しはマシになったみたいだった。
「・・・ありがとうございます。」
「こっちこそ。また調書作んのに、話を聞かせてもらうことになるだろうし。」
「・・・・・・それも私にできることの1つなら。」
「協力、ありがとう。」
最後、笹塚さんが少し微笑む(と言うより、ちょっと表情が優しくなったとでも言うべきかな。だって、笹塚さんって基本、表情とかあんまり変わらないし・・・。)と、ちゃんもかすかに元気を取り戻したみたいだった。・・・よかったね、ちゃん!
そして、ネウロはシックスとの決戦に向けて、また謎を探す日々となった。さらに・・・。
***** ***** ***** ****** *****
私は、弥子ちゃんの手伝いをすることにした。と言うか、実際はネウロさんの手伝いをすることになった。本当は、ネウロさんが事件を解いてるんだって!魔界とかの話もあったけど、ネウロさんの力を見れば、それも結構すぐに納得できた。
そんなわけで、私も桂木弥子探偵事務所の一員となった!大好きな弥子ちゃんと、また喋ったりする時間が増えそうで、それも嬉しいことだ。でも、それだけの理由で手伝いを決めたわけじゃない。
私は、笹塚さんの話を聞いて、自分にできることを考えた結果、こうしようと思ったのだ。私みたいに巻き込まれて、疑われてしまうなんて人が出る前に、事件を解決すればいいと思ったからだ。だけど、残念ながら私には事件を解く力は無い。そこで、弥子ちゃんを手伝おうと考えたわけだ。
・・・本当、最初はそれだけだったんだけどなぁー。最近じゃ、不純な理由があることも否めない。
「弥子ちゃん!警察に用があるなら、私が行くよ!!」
「わかってるよ。本当、笹塚さんのこと好きだね。」
「そ、それだけじゃないってば!弥子ちゃんの手伝いをしたいの!」
それだけじゃない、って・・・。笹塚さんに会いに行きたいって部分は、否定しないんだね、私。やっぱり、不純だ。
「まぁ、笹塚さんも満更じゃないと思うけど。」
「そ、そんなことないよ!!」
それはない!!だって、最初、弥子ちゃんを手伝うことにしたって、笹塚さんに報告したときも・・・。
「あぁ、ちゃん。・・・もう大丈夫になったんだ?」
「はい、お蔭様で!本当に、ありがとうございました。」
「いや。別に、俺は何もしてないけど。」
「いいえ、笹塚さんには励ましてもらいました!」
「そう?まぁ、何でもいいけど。・・・今日は、それを言いに、わざわざこの事件に?」
「それもありますが。実は、笹塚さんのお話を聞いて、自分に何ができるかを考えた結果、弥子ちゃんの手伝いをしよう!ってことになったんです。」
「・・・・・・そういうつもりで言ったんじゃないんだけどな・・・。まぁ、あんまり無茶はしないように。」
という具合に、とてもとても呆れたご様子だったし・・・。でも、私は自分でやると決めたんだから、ちゃんと事件現場に行ったり、警察に資料を見に行ったり、何度も笹塚さんとお話をさせていただいた。
その結果、いつも冷静なのに、本当は優しい笹塚さんを好きになってしまったわけだけど。最近じゃ、事件に行っても、すぐに追い返されそうになるぐらいだ。だから、満更じゃないなんてことはないよ、弥子ちゃん!
「今日は警察には行かないけど・・・。事件は起こるみたいだから、一緒に行こうか。」
「ありがとう、弥子ちゃん!・・・でも、事件が起こるのは、本当残念なことだよね・・・。」
「そうだね・・・。ネウロにとっては食事なんだろうけど・・・。」
弥子ちゃんも、昔お父さんのことで、事件に巻き込まれたらしいし、今までだってたくさんの事件を見てきたからこそ、私以上に残念なことだと思ってるんだろう。
でも、やっぱり、残念なことだから、私も手伝って、早く事件を解決しなきゃね!そう意気込んで、私たちは事件が“起こる”場所へと向かった。
そこでは既に、事件を見ている人だかりと、パトカーの集団、そして“6”という文字に見えなくもない血痕があった。ネウロさんが相手にしている“シックス”を思い出させたけれど、それにしては規模が小さい。・・・誰しもがそう思い、またネウロさんも“謎”の小ささに残念がっていた。
でも、そのおかげで、事件はあっさりと解決した。そして、やっぱりシックスとは何の関係も無かった。“食事”を終えたネウロさんは、早々に帰ろうとしていて、私も弥子ちゃんも帰ろうとした。・・・ただ、その前に。
「弥子ちゃん。笹塚さんに、私たちはもう帰りますって伝えてくるね。」
「うん、よろしく。」
少しでも事件に関わったのだから、これぐらいのことはしなければ。・・・まぁ、私がしたいだけっていうのもあるだろうけど。とりあえず、私は笹塚さんの姿を探しに行った。
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今回も、笹塚さんとの絡みが少なくて、すみません・・・(汗)。でも、前回よりかはマシなような気が・・・・・・してるのは、私だけですかね;;
とりあえず、次回は、もうちょっと絡む予定です!あくまで、予定ですが・・・orz
あと、前回のあとがきで心配していたトリックについては「雑な仕組み」で、無理矢理解決(?)させました(笑)。
どうしても、事件に巻き込まれ→笹塚さんが慰める、という話にしたかったので、今回はそんな無理をしてでも書きたかったんです・・・!
今回の話の後半を見ていただければわかると思いますが、今後は事件の詳細についてはスルーしていく方向になります(笑)。
こんな作品ですが、最後までお付き合いいただければ、幸いです・・・!
('08/07/18)